ホリスティック豆知識Blog

2019年02月13日(水)

豆知識

人と動物の共生を考える ~ 犬や猫と暮らす介護施設 ~

犬や猫は「人に最も身近で、人と共生・共存できる動物」ということはみなさん共通の理解かと思います。
ただ、共存とはどういう事を指すのか?互いにとって、よい形での共存とはどういうものか?これには様々な考え方があると思います。

動物との暮らし方や距離感は、文化・死生観・人生観などが影響し、人によって違いがあります。私たちは、こうあるべき・これは間違い、ということではなく、様々な考え方を知り、受け入れながら一人ひとりが考え、動物と共に生きる社会を創っていきたいと考えています。

今日は、それを考える一つのきっかけとして、犬や猫と人が一緒に暮らす介護施設をご紹介します。ぜひ、ご一読ください。

 

動物と暮らす介護施設

介護施設は、人が一生の最期を過ごす大切な場所ですが、様々な事件や事故のニュースが流れ、多くの課題を抱えています。
介護施設のことをあまりご存知でない方のために少し説明します。

■特別養護老人ホーム

在宅での生活が困難になった要介護の高齢者が入居できる公的な「介護保険施設」の1つで、「特養」と呼称されています。民間運営の有料老人ホーム等に比べ低料金で待機者が多いと言われています。

■認知症高齢者グループホーム

認知症の状態にある要介護高齢者等が共同で生活をする高齢者介護施設です。

 

今回取材させていただいたのは、こちらの介護施設です。

●特別養護老人ホーム 加賀屋の森
●北加賀屋5丁目のつるさんかめさんの家

そこで犬や猫と人が共存していました。全部保護された子たちです。三木理事長、矢部施設長、スタッフのみなさまにお話を伺いました。

 


まずは両施設を簡単にご紹介します。

<特別養護老人ホーム 加賀屋の森>
100人の入居者とデイサービス部門があり、施設も大きく、コンパニオンルームという部屋で、庵(いおり)ちゃん(柴犬)とシロちゃんとトラくんの2頭の猫が(みんな男の子ですが去勢手術を受けています)暮らしています。

シロとトラです。

庵ちゃん^^

 


ここでは、1日の流れが決まっていて、その流れに沿って、動物たちも仕事をします。

—————

‐9時
コンパニオンアニマル担当のスタッフが出勤したら、散歩・朝ごはん・歯磨きやブラッシングなどのケア、掃除をします。

‐夕方まで
間に休憩をはさみ合計3回、入居者さんと動物たちのふれあいタイムがあります。ふれあいタイムは30分~1時間ほどで、入居者さん、動物たちの様子を見ながら一緒に時間を過ごします。

‐16時半
散歩、夜ごはん、歯磨き、掃除で1日の仕事が終了します。

—————

ふれあいタムだけでなく、不穏な方(突然暴れ出したり、大きな声をあげ出したりする興奮状態になった方)がいたら、動物担当スタッフがいる間であれば、いつでも連れてきてくださいと伝えているそうです。日常とは違う空間で動物と触れ合うことで、心が落ち着くそうです。

 

施設長の矢部さん。施設全体を守るリーダーとしてご苦労は絶えない中、庵ちゃんに毎日癒されながら、理想の施設を目指して奮闘されています。

 

元トリマーの鬼頭さんと元動物看護士の杉本さん。

 

お二人とも、前職を経て、人と動物がともに幸せに暮らすことへの想いを持ち、この施設の求人を見て、「これだ!」と思い、応募されたそうです。深い動物への愛と専門知識だけでなく、人と動物の共生に自分ができることがあるのではという強い使命感をお持ちの素敵な方でした。

 


<グループホーム つるさんかめさんの家>

施設のイメージは学校の寮のような感じで、犬がそこで「自然に」暮らしています。ペコちゃん(チワワ×パピヨンのMIX犬)です。犬のトイレもごはんの場も食堂兼リビングの中にあります。入居者さんがいる中を、「自然に」犬があちこち走り回っています。

ペコちゃん^^

 

施設管理者の木村さん(中央)と、最初は犬が苦手だったけど、今は一番ペコが大好きな森谷さん(左)、高道リーダー(右)。
とても気さくにお話してくださり、みなさんのお人柄を感じることができる笑顔溢れる施設でした。

 

どちらの施設にも共通しているのは、人の介護のみをするスタッフはいますが、動物のお世話だけをするスタッフはいないということ。動物のお世話をするスタッフは全員、「介護」と「動物のお世話」の両方を担当しています。

 

地域住民に施設を開放。その理由は?

ここでは施設を地域に開放しています。

子供たちが犬に会いにきたり、イベントをしたり、1階にあるフリースペースにはビールサーバーがあり、持ち寄りで地域の方と宴会をしたりすることもあるそうです。 また、犬の散歩は「わんにゃんパトロール」と称して、地域の見張り番としての役割も担っているそうです。そうすることで入居者さんが地域とのつながりを持ち、また地域の方の介護に対する認識や理解が深まるという効果もあるんだそうです。

 

加賀屋の森のコンパニオンルームにて、動物に会いに来た子供たち。

 

わんにゃんパトロール中。

苦労を乗り越え、感じた手応え

■導入のきっかけは何だったのですか?

「どんなに深い関係でも、いや、深ければ深いほど、人による介護には悲しさや脆さが伴います。しかしペットは全身全霊で飼い主を愛してくれ、裏切らない。悪口も言わない。黙って話を聞いてくれる。反論しない。泣かない。怒らない。いつもそばにいてくれる。ですから、老後を動物と過ごす事のできる介護施設を作りたかった。それが、人間にも動物にもプラスになる。スタッフが1日に一人の入居者さんにかけられる時間は本当に少ないし、その内容も身体的な介護が優先される。寂しいと思っている高齢者に必要なのは心のケアだが、それを犬や猫が埋めてくれる。」
また、最近では介護スタッフの採用は非常に難しく、スタッフが集まらないので困っている施設は少なくないそうです。他にない【チャーミングな何か】があれば、若い介護職が集まるのではないかと思い、「犬や猫とともに暮らす施設」を実現したそうです。

 

■導入に向けての苦労はありましたか?

スタッフからの反対意見だったそうです。衛生面や事故などのリスクや仕事が増えるという理由でした。
それに対して、一般家庭では普通に犬や猫と暮らしているのに、なぜ老人ホームだとダメなのか?適切にケアし、暮らしていれば、伝染病も事故も防げるのではないか?逆に【過剰な安全】を思うばかりで、ホームにいる人の【人】としての尊厳を奪うことになるのではと説得されたそうです。
スタッフには、成功事例である神奈川にある「さくらの里」という特養を見学に行ってもらい、理解を得て進めることができたそうです。そして、導入の最大のポイントは庵ちゃん(柴犬)に出会ったこと。
庵ちゃんはここに来るまでに別の老人ホームで暮らしていたそうですが、改修工事のため住むところがなくなったので里親を探していたところを理事長が引き受けたそうです。人に慣れた穏やかな犬だったので問題はほとんど発生していないとのことです。他の動物たちも理事長の友人から里親として譲渡された子達だそうですが、「ペットにとって負担がかかるようなものではいけない。」というスタッフの意見もあり、矢部施設長が理事長とスタッフの間に入って色々と話し合ったそうです。


■犬や猫を迎えた暮らしをスタートしてみて、いかがですか?

入居者の方にはプラスの効果が出ています。犬や猫と暮らすことの素晴らしさをご存知の方なら想像がつくかと思いますが、いわゆる癒し効果だったり、私がお世話をしてあげなければというある種の「責任感」のような気持ちが芽生えたりしています。手が上がらない、起き上がれないなどの身体的な不調が改善し、生活に張りのようなものが生まれたり。もちろん、犬や猫が好きでない方もいますが、彼らの存在自体は受け入れ、遠くから見ているという感じです。

私が取材に伺った際にも、「誰?」という怪訝そうな表情で私を見ていた方が、犬や猫が通った瞬間に「庵ちゃん!」と満面の笑顔になるシーンがありました。

入居者さんと動物たち。入居者さんの「手」に動物への労りや愛情を感じます。それが生きる糧となっています。

 

またスタッフに対しても、非常に大きな効果がありました。

人材不足の中、特養のスタッフは「犬や猫がいるから」という理由で入社してもらえています。休憩中のスタッフの癒しにもなっています。常に、何が起こるかわからない緊張感の中、散歩やごはんなど大変なこともありますが、それ以上の価値を受け取っています。

介護施設では、スタッフの交代時には毎日申し送りがあります。一般的には、介護施設ではこの時間は前向きな話が少ないです。病院のように回復や退院といったことが少ないためです。ですがここでは、犬や猫の話が出ることで、前向きさや笑いが生まれます。それだけでも働く人たちにとっては大きなことなんです。

 


取材させていただいた私の目に映った姿ではありますが、犬や猫たちにも良い効果が出ているように感じました。

全て保護された子たちでしたが、ストレスや恐怖感、人への警戒心などネガティブなものが感じられませんでした。それどころか、イキイキと暮らしていました。もともとそういう素質を持った子だったからなのか、この環境が彼らをそのように導いたのかはわかりませんが、そこには「共生の形」があるように思えました。

 

これからの展望

次にできるのはペットと一緒に入れる施設だそうです。犬や猫と暮らす方にとっては理想の施設ですね。

「老人だけ、子供だけ、障害者だけという縦割りの施設を作ることで、弱者と強者という関係ができてしまい、介護を「してあげる」という上から目線が生まれる。しかし縦横をごちゃまぜにすることで、それぞれの長所や特徴を発揮して、自立し認め合い助け合う生活が生まれる。そういう施設環境を整えていきたいとのことでした。今回、アニマルコンパニオンを導入することでごちゃまぜが加速したように感じています。」「動物に癒される人がほとんどです。怖がるような人もおられるそうですが僕はそれもいいと思っています。施設で生活するお年寄りの感情を刺激するような仕組みがもっと必要だと思います。」


様々なところで動物介在療法や教育が導入されていますが、実際に現場に伺いお話を聞きして、改めて素晴らしい取り組みだ思いました。
動物のことを学んだ方や動物を好きな方が、犬や猫と人との懸け橋となり誇らしげに働いている。そして、犬や猫が、人と人の懸け橋となって働いている。

現場は毎日さまざまな課題に直面されているのだと思います。そんな中で、人も動物も役割を持ち、やさしさと笑顔で溢れる「ごちゃまぜの共存」。素晴らしい施設でした。

三木理事長。トライアスリート(アイアンマン)だそうです^^

スタッフのみなさんです。


最後になりましたが、この場を借りて加賀屋の森、つるさんかめさんの家のみなさまに心より感謝申し上げます。ありがとうございました。

※画像は、みなさまの了解を得て掲載させていただいております

(講座事務局 塔春)

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